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終わる冬へ

 

今はもう無くなった母校の小学校の校舎の1階音楽室、昼休みのピアノの椅子の上がわたしの特等席だった頃、窓にもたれかかってひとりで雪を見てるのが好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

クリーム色の、ひび割れが目立つようになった校舎の壁に冬のつめたい風が遮られて、ゆっくり落ちてくる雪を真下から見上げた。たった20分程度のお昼休み、あっという間のお昼休みだけれど、この部屋だけ、たったひとりで音楽室のピアノの前にいる時だけ、時間は止まっている。

廊下に出てすぐの角を曲がったころにある体育館の喧騒もここには遠くの世界の話で、それがとても心地いい。古い校舎は未だに電気暖炉のようなストーブを使っていて、天井から窓に向けて煙突がへびのように部屋の中を這っている。小学校の音楽室ではめずらしく、有名な作曲家たちの肖像画も飾っていなくて、学校の怪談のたぐいが苦手なわたしでもこの部屋はぜんぜんこわくない。

 

ストーブの音を聴きながら、すこし眠たくなってきた。落ちてくる雪を見飽きたら、いま習っているお気に入りの曲を弾こう。職員室にまでわたしのピアノが聞こえていると知っているけれど、先生はなにも言わない。きっとだれも邪魔しに来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

冬になるともう一度あのゆっくり落ちてくる雪が見たくなる、無くなった校舎の跡地は思っていたよりもずっと小さくて、忘れないようにもう跡地に足を踏み入れなかった。

 

冬が来て歳を取って、わたしたちは大人になろうとしていて、そして子どもの頃のわだかまりに終止符を打とうとした。

成人式で久しぶりに会ったあの子とは、高校時代の朝の始発電車みたいにすんなり隣に座った、だんだんお母さんに似てきていた気がする、思わず笑ってしまった。 溜めていた気持ちみたいなとりとめのない話をしようとしたけれど、なんだか忘れた。いいや、めでたい日だし、いまさらどうこう、なんだか圧倒的にくだらない。

秋田ではめずらしく晴れてた、いい天気の日だった。

 

同級会で幼馴染のあいつとも話した、ひと言だけ、ずっと後悔して謝りたかった小学5年生の時の話をしてみた。けれどもちろん覚えているはずもなかった、それでよいけれど、迷惑だったかなあと、なんだか気が抜けたのと、途端になんだか自己満足なだけだったなあと、がっくりして疲れた1日だったことを思い出した。

 

 

もう冬が終わる、

成人式はもう二度と会わないための儀式のような気がした、実際、会ったって話すこともないような気がする。それならわざわざ5年後みたいにしなくてもいいのにね、もう少し、たいせつにしていたおもちゃ箱をていねいに底までひっくり返すようなかわいい話をしたかった。でも仕方がないね。

 

 

 

終わる冬を想うとき、いつでもあの時間を思い出そう。