白い灯台

 

去年のうちに無くなるはずだった白い灯台は、年が明けてもまだそこにあった。

ランプが取り外されてもうなんの役目も持たなくなっていて、自慢の真っ白なからだもくすんで見えた。

いつなくなってもおかしくないあの灯台、あの白い灯台にこんなにもこだわるようになったのはやっぱり海の見えない町に来てからなのかな。それとも、なにか他の、わからないけれど。

去年の秋に車で出かけた時わがままを言って立ち寄ってもらった、その時にこっそり拾った小さなタイルをあいつの形見にしようと決めた。

 

灯台のある、すぐそばに母の実家がある隣町が小さい頃から大好きで、その場所にいれば幸せで、自分の家とは違ってひとりでいても明るくて、どこにいても冒険で、二階の揺り椅子から見る小さな港が大好きで、祖父の掘るやさしい顔の彫刻や叔母の油絵の匂いや祖母の甘い卵焼きが大好きで、2匹の大きな犬も古いオルガンもレコードも大好きで、寝るときに聴こえる海の音も大好きで、

でもここ数年ですっかり身体の弱くなった祖父母のことが実は怖くて、やんちゃな犬も大きな金魚もいつの間にかいなくなってしまって、オルガンも鳴らなくなって上には荷物が積まれていて、揺り椅子のある部屋は窓が錆びついて開かない。灯台もなくなってしまって、いつかあの町に近づけなくなってしまうんじゃないか、怖くて、たまらなくなってしまって、変わらないでほしいって無理な願いばかりが増えていって、

わたしはもうずっと大きくなんてなりたくなかった。

 

全部最後はひとりぼっちになるための準備のような気がしていて、縋れるものもひとつずつさよならをしなくてはいけなくて、そのときに残るものやあげられる言葉がひとつもない。こんなに頭の中は言葉で飽和してるのに。さみしくて、でもペンを持ってもひとつも言葉が書けない。

ここ最近はもうずっと眠い。早く春が来ればいいのに。