1987→→→→

 

まだウォークマンもイヤホンも持ってなかった12歳、親の車にあったスピッツの三日月ロックを持ち出して真夜中、CDプレイヤーを抱いて、二段ベッドの上の段の姉を起こさないように、暑いのに布団をかぶって、ちいさなちいさな音でずっと聴いていた夏、わたしの醒めない瞬間だったと思う。

 

スピッツ結成30周年おめでとうございます、メンバー変更も活動休止もなくずっと続いてきたこと、素晴らしい音楽を鳴らし続けてくれたこと、これからもずっとずっと続くように願っています。

やがてくる大好きな季節

 

ちょうど1年くらい前にも書いたけれど、おだまきという花が好き、たぶんいちばん好き、桜よりもタンポポよりも月見草よりもシクラメンよりも好き。

ふりふりした背の高いものや、赤っぽいスイセンに似た亜種もあるけど、わたしが好きなのは背の少し低い藍色のシンプルなもので、原産はどこなのか分からないけど見た目がすごく日本画みたいでしょ、激烈しっくり感。激烈しっくり感って、語感がすごいね。

この季節はどこの家の軒下にもだいたい咲いていて、きれいね。たくさんある若い緑とはちがう青っぽくて薄い色の葉も、雨や灰色の空とよく似合うから日本ぽいのかなあ。生活に馴染む花の方が好きだな。

 

新しい素敵な青い腕時計や大好きなミントグリーン色の服や捲ったズボン、ひょっこり戻ってきた自転車や短く切った前髪に気分がもこもこする。みんなわたしの初夏のための味方だ。

今年はもしかして上手に生きられるかもしれない。

というのも、初夏がいちばん好きなのにあまりのエネルギーに毎年負けてしまうからで、今年はちゃんとしたいね、やろうね。

 

ともだち、少ないけれど、最近はともだちと話ができるととっても嬉しい。そのまんまもう、嬉しい。ともだちにそばにいてほしいだけです。ぬるい風だったりさらさらしたTシャツだったりシャンプーの匂いだったり、よい初夏にしたいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

終わる冬へ

 

 今はもう無くなった母校の小学校の校舎の1階音楽室、昼休みのピアノの椅子の上がわたしの特等席だった頃、窓にもたれかかってひとりで雪を見てるのが好きだった。

 

 

 

 

 クリーム色の、ひび割れが目立つようになった校舎の壁に冬のつめたい風が遮られて、ゆっくり落ちてくる雪を、真下から見上げた。たった20分程度のお昼休み、あっという間のお昼休みだけれど、この部屋だけ、たったひとりで音楽室のピアノの前にいる時だけ、時間は止まっているみたい。

 廊下に出てすぐの角を曲がったころにある体育館の喧騒もここには遠くの世界の話で、それがとても心地いい。古い校舎は未だに電気暖炉のようなストーブを使っていて、天井から窓に向けて煙突がへびのように部屋の中を這っている。小学校の音楽室ではめずらしく、有名な作曲家たちの肖像画も飾っていなくて、学校の怪談のたぐいが苦手なわたしでもこの部屋はぜんぜんこわくない。

 

 ストーブの音を聴きながら、すこし眠たくなってきた。落ちてくる雪を見飽きたら、いま習っているお気に入りの曲を弾こう。職員室にまでわたしのピアノが聞こえていると知っているけれど、先生はなにも言わない。きっとだれも邪魔しに来ない。

 

 

 

 

 

 

 冬になるともう一度あのゆっくり落ちてくる雪が見たくなる。あの場所で以外、あんなにゆっくりと落ちてくる雪を見たことがない。

 無くなった校舎の跡地は、思っていたよりもずっと小さくて、できるだけ忘れないようにと、もう跡地に足を踏み入れなかった。

 

 

 冬が来て歳を取って、わたしたちは大人になろうとしていて、そして子どもの頃のわだかまりに終止符を打とうとしたかった。

 

 成人式で久しぶりに会ったあの子とは、高校時代の朝の始発電車みたいにすんなり隣に座った。だんだんお母さんに似てきていた気がする、思わず笑ってしまった。 溜めていた気持ちみたいなとりとめのない話をしようとしたけれど、なんだか忘れた。いいや、めでたい日だし、いまさらどうこう、なんだか圧倒的にくだらない。

秋田ではめずらしく晴れてた、いい天気の日だった。

 

 同級会で幼馴染とも話した、ずっと昔はいちばんの仲良しの自信があった。小さくて立派な冒険はなによりも楽しかった。学校に来なくなって、ちょうど私たちは男の子と女の子になる時期だったので距離が開いてしまって、話もしないままあいつがなんだか腫れ物扱いみたいになっていくのが悲しかった。ひと言だけ、ずっと後悔して謝りたかった時の話をしてみたけれど、やっぱりもちろん覚えているはずもなかった。それならそれがよいのだけれど、迷惑だったかなあと、なんだか気が抜けたのと、途端になんだかいつまでもわたしの自己満足を満たすためだけだったんだなあと、がっくりして疲れた1日だった。もう誰とも会いたくないなあ。

 

 成人式はもう二度と会わないための儀式のような気がした、実際、会ったって話すこともないような気がする。それならわざわざ5年後みたいにしなくてもいいのにね、もう少し、たいせつにしていたおもちゃ箱をていねいに底までひっくり返すようなかわいい話をしたかった。でも仕方がないね。

 

 

 

 

 今年ももうすぐ冬が終わる。似たような冬を何度も何度も過ごしているけれど、でもやっぱり少しずつ少しずつ、きっと春が来るみたいに大人になるのだと思った。

 

 終わる冬を想うとき、いつでもあの時間を思い出そう。

 

 

復讐

 

あいつに絶対復讐してやる、あいつらにいつか必ず復讐してやるって思ったのに、なにもできないまま大人になっていくの、いつのまにかそんなちっぽけな復讐なんかどうでもよくなっていくの(それでもあの頃はそこが世界のすべてだったのに)、かなしくてかなしくて、どうしたらいいか分からない。